■中ノ目知章(なかのめともあき)
1992年生まれ、神奈川県出身。現在27歳。
児玉克洋、宮本百合子に師事。2007年第18回全日本バレエコンクール、第40回埼玉全国舞踊コンクールに於いてジュニアの部第一位。
2008年ハンブルクバレエ学校よりスカラシップを得て2年間留学。ジョン・ノイマイヤー、ケヴィン・へイゲンらの指導を受ける。
同校卒業後、ドルトムント劇場と契約、その後キール劇場、ノルウェー国立バレエ団、そしてハーゲン劇場所属を経て現在ドイツ・デュッセルドルフ/デュイスブルクに拠点を置く
バレエ・アム・ライン ソリストとして活躍中。
今秋9月のバレエ・アム・ライン初来日公演 シュレップア―版≪白鳥の湖≫では
オデットの継母の側近役(予定)。
Q.「バレエ・アム・ライン」というバレエカンパニーの特徴は?
バレエカンパニーとしての環境が全て整っていること。バレエスタジオが5つあり、サウナやジム、身体のメンテナンスを受けられる場所が全て整っている。
カンパニーのレパートリーが充実していることも特徴としてある。その中でもアム・ラインの芸術監督であるマーティン・シュレップァーのレパートリーがやはりみんな一番好き。
監督のマーティン自身が週に1回レッスンの指導をするというのは今までのカンパニーではなく、実際に手本を見せて教えてくれるので、今までのカンパニーよりも格段に成長できた。
Q.「バレエ・アム・ライン」の《白鳥の湖》の特徴
クラシックは綺麗に踊らなければならない。また“白鳥の湖”といえば白いチュチュという印象を持っている方が多いと思うが、マーティン・シュレップァーが見せたかったのは、“陰と陽”の美しさ。人や物それぞれに必ずあるであろう“陰と陽”の心理的な部分を映して魅せていることが特徴だと思う。
振付のときにマーティンから役についての振付の細かい説明は一切なく、指導の際にはそのダンサーから出てくる感情をしっかりと引き出して踊って欲しいと強く求められる。
つまり登場人物のキャラクターの表面的なところではなく、ダンサー自身の内面からでてくる感情をその役の心理にあてはめるように作られている、と語る。
出演者一人一人、一つ一つの役割に特徴がある。“個性”をだして踊らなければいけないというところがこの作品に限らずシュレップァーが大切にしているモットーともいえるだろう。
マーティン・シュレップァー版の《白鳥の湖》は初版台本に則っている。例えばオデットを守る祖父役やオデットを苦しめる継母役が登場する。“善と悪”や“陰と陽”を表現していることが良く分かる部分ともいえるだろう。
Q.マーティン・シュレップァー版の《白鳥の湖》を一言で表すならば?
「白鳥の湖という物語の奥深いところを見ることができる」ということだろう。
“ただ観て終わる”というのではなく、“観てから考える”ということをお客様にゆだねているところがある。クライマックスも観た人の解釈にゆだねられるだろう。
Q.マーティンの指導とは?
マーティンは普段のレッスンでも全力で踊ることを求めてくる。
他のバレエカンパニーでのレッスンは作品を踊るためのウォームアップだったが、マーティンのレッスンはその概念が覆された。
バレエというと“綺麗に踊ること”が求められがちだが、シュレップァーは綺麗に踊るというよりも限界への挑戦や筋肉の使い方を意識した実用的なレッスンである。
毎日フルMAXで踊ることの積み重ねで、舞台に立った時にも作品の演出・振付を全力で出すことができていると思う。
“舞台の上でリスクを冒すことを恐れないで欲しい。失敗してもいいから全力で踊って欲しい”という気持ちがマーティン・シュレップァーにはある。
また日頃から私たちは「パーソナリティ(個性)」を意識しろと言われている。普段のレッスンから「パーソナリティ」を出していくことを大切にしている。
Q.今回の《白鳥の湖》で中ノ目さんが踊る継母の側近役とは?
《白鳥の湖》の中の悪役として有名なのはオディールやロットバルトだが、マーティン・シュレップァーはロットバルトを操るオデットの継母に焦点をあてている。その継母の側近役を踊ります。僕は髪の毛も黒いし、陰の部分を視覚的にも引き出せるキャスティングかな?と思う。
側近役という悪役を悪く見せるというより、自分の中にある“陰”を意識して、内からでてくる“悪”をみせることを大切にしている。
Q.音楽がオリジナル版であるが今まで踊ってきた白鳥の湖とは違う音楽についての特徴は?
振付と音楽が合っていること。オリジナルのCDはかなりテンポが速く、そのテンポを使っているんだろうなと思う。「くるみ割り人形」や「眠れる森の美女」などの有名なストーリーバレエに振付をしてこなかったマーティンが、今回「白鳥の湖」を手掛けたということは、小澤征爾さんの音源がよっぽど衝撃的だったんではないかなと思う。
今回の指揮者である小林資典さんもドイツのドルトムントで活躍されている方。ドイツで活躍されている日本人の指揮者と一緒に日本で仕事できることはとても楽しみ。
Q.登場人物について
例えば王子だと心境の変化がとても繊細に描かれている。強さだけでなく弱さも見せている。一般的な王子というよりも、心の変化や葛藤が見えてくる人間味のある役どころだと思う。僕は側近役としてオデットをいじめる役なので、オデットには悲しんで欲しい。だがオデット自身もとても強い女性として作られていると思う。
バレエだとオデットはオデット、オディールはオディールであって、ダンサー自身の個性を出すと役が崩れてしまうと思いがちだが、マーティン版は個性を前面にだしているところも見どころの一つ。
踊る人によっても役の解釈が違ってくるので、今回のダブルキャストでのダンサーそれぞれの個性の違いもみどころ。1回だけでなく、2回3回とみて欲しい。
Q.バレエ・アム・ラインの初来日公演について
日本で公演ができると聞いたときは「本当かな」と思いました。日本の振付ではなくドイツのバレエ団の振付を日本で踊ることはなかったのでとても楽しみです。劇場にぜひお越しいただき、“ドイツの芸術”を感じて欲しいです。

ロイヤル・バレエスクールで学びバーゼル・バレエに入団。
その後1994年にベルン・バレエの芸術監督となり、1999年~2009年はバレエマインツを結成し芸術監督に。
2009年にバレエ・アム・ラインの芸術監督および首席振付家に就任。
就任最初のシーズンでドイツのダンス雑誌『tanz』で最優秀振付家に選ばれ、バレエ・アム・ラインは2013、2014、2015、2017年と最優秀カンパニーに選ばれた。
欧州では人気振付家として、自身のカンパニー以外にもチューリッヒ・バレエ、ミュンヘン・バレエ、オランダ国立バレエなどに作品を提供。2006年にブノワ賞最優秀振付家、タリオーニ賞、2009年と2012年にはドイツ芸術のアカデミー賞と称されるファウスト賞を受賞。2014年にはタリオーニ・ヨーロッパバレエ賞最優秀芸術監督に選ばれた。
振付家・シュレップァーを取材したドキュメンタリー『Keep the flame, don't pray to the ashes』はドイツで放映され、DVD化もされている。
2020年にはマニュエル・ルグリの後任としてウィーン国立バレエ団芸術監督の就任が決まっている。