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ハイエース一台で大阪から東京・東久留米に上京。とにかく早く知名度を上げて劇団で成功するために、劇団員の7人は一つ屋根の下、アルバイトもせずに路上パフォーマンスで日銭を稼ぐ……劇団鹿殺し代表・丸尾丸一郎の自伝的小説『さよなら鹿ハウス』には、とにかく「伝説になりたい!」とがむしゃらに夢を追いかける若者たちの青春物語が描かれている。

「小説では描ききれなかったことを舞台で表現したかった」という丸尾は、この作品の舞台化を決意。同タイトルの舞台「さよなら鹿ハウス」が、11月8日から座・高円寺で始まる。主演をつとめる渡部豪太以外のキャストは全員オーディションで決めるなど、新たな劇団を立ち上げるかのような気迫を感じさせる同舞台。

編集部は、公演直前の舞台裏に潜入取材。作・演出である丸尾氏と、渡部豪太氏に話をきいた。

タイムリミット直前の通し稽古

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その日は、稽古最終日の前日。緊張感の漂う中、通し稽古が始まる直前、劇団鹿を演じる7人のメンバーは円陣を組み、集中力を高める。丸尾の「あまり気を張らずに楽しくね!」という声に応じるように、彼らは気合いを入れたあと、爽やかな笑顔でそれぞれの持ち場へと走る。

渡部演じる角田角一郎が過去を振り返るようにして始まるオープニング。ハイエース一台でともに上京した、オレノハーモニー、ジョン・J・ウルフ、渡辺ダガヤ、山本サトル、入交ヨシキ、そして鹿の子チョビン。個性的なキャラクターたちが、一斉に集い踊り出す情景は圧巻だ。

その後も、関西弁特有の軽快なやりとりで笑いを誘いながら、物語は進んでいく。誰かの言った冗談に笑う瞬間の様子は、演技で笑っているのか、本当に笑っているのか区別がつかないほどにリアルで、舞台は泥臭くも清々しい青春のエネルギーに満ちていた。

稽古をしながら気づいた、丸尾と渡部の共通点

――今日は直前のお忙しいところありがとうございます。今回の舞台では、渡部さんだけは丸尾さんのオファーでキャスティングが決まったんですよね。その理由はなんだったのでしょうか。

丸尾丸一郎(以下、丸尾) うーん、天パだったから?(笑)

渡部豪太(以下、渡部) 丸さんも実は天パですからね

――髪型ですか。

丸尾 まあ、それに加えて、僕自身ずっと渡部さんと一緒にやりたいなと思っていたんですよ。彼のもつ上品さや優しさなどが醸し出されている雰囲気というのが好きで、今までも何度かオファーをしようという話は出ていて。それが今回やっと一緒にやることができて、念願が叶ったという感じです。

――「さよなら鹿ハウス」の主人公は角田角一郎という名前ですが、実質丸尾さんの自伝でもある作品ですよね。主人公を渡部さんにしたというのは、どこか自分に通じる部分なども感じていたのかな、と。

丸尾 ……顔?

――……顔ですか?

渡部 いやあ、めっちゃ似てますやん! 生き別れの兄弟かと思ったわ!

丸尾 (笑)。最初は、優しさかな。僕、こう見えても根が優しい男なんで、渡部さんのもつ優しさは合うのかな、と。ただ、実際に稽古していくうちに、実は渡部さんって優しいだけじゃなくて熱い男なんだって気づいたんですね。

今回、新たに劇団を作るような気持ちでオーディションメンバーと舞台に立ち向かうというのは伝えてあったのですが、それを彼なりに考えてくれているのか、メンバーを鼓舞したり率先して引き連れてくれたりする。厳しい言葉を豪太くんからメンバーに言ってくれることもあって、稽古の中でも劇団を引っ張る存在としていてくれるんです。しかもそれが劇中にも滲み出てくるようになって、僕自身それがとても気に入っているところです。

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――それは今回角田角一郎を演じる上で出てきたものなのか、それとも渡部さんご自身の性質だったのか、どちらなのでしょう。

渡部 いや、丸尾さんに怒られたくないからです。

――(笑)

渡部 いや、本当に怖いんですよ。だから丸尾さんが怒る前に俺が怒っといた方がいいのかな、みたいな。もちろんそれは優しさがあってこそのもので、現場をよく見ているからこそ出てくる言葉ではあるんです。だからキャストのみんなも誰も丸尾さんを嫌ったりはしない。

ただ、頑張ってはいるけど丸尾さんの期待に応えられないというジレンマもあるし、そこで丸尾さんが厳しい言葉を発すると縮み上がってしまうかもしれないから、その前に俺が言っておく。

――丸尾さんのことも、メンバーのことも考えてのことなんですね。ちなみに渡部さんも何か叱られたりはしますか?

渡部 しょっちゅうです。「死ね、チリ毛!」とか。

丸尾 言ってない、言ってない!

渡部 まあそれは冗談なんですけど、僕の弱点などもしっかりわかった上で指導してくれているんだなというのは毎回伝わってきますね。

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あのときの青春のように、舞台はこの一瞬しかないから

――渡部さんは稽古を通じて丸尾さんに対する印象の変化などはありましたか。

渡部 もともと優しそうな人だなとは思っていたんですけど、実際に原作の本を読んでみて、意外と闇の深い方なんだなあと思いました。それは決して悪い意味ではなくて。陽気で楽しい人なのは確かなんだけど、その一方で人間としての感情の幅が広い方。だからこそいろんな人を惹きつけるし、劇団の代表をやる器量にもつながっているのかな、と。

丸尾 なんだか照れくさいですね。でも、確かに渡部くんが角田を演じる上でダメ出しをするときも、「もっと気持ちを大事にしてくれ」という言い方はしますね。とにかく嘘のない芝居にしたいというのが、稽古初日から僕たちが一貫してもつ望みです。

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――嘘にならない芝居っていいですね。

渡部 まだぜんぜん至らないところがあって、本番までには必ず間に合わせたいんですけど、もしメンバーみんなが嘘のない本当の気持ちでつながりあえば、結果として小説では描ききれなかった息遣いのようなものが実現できると思うし、それはどうにか成功させたいと思っています。

丸尾 僕自身はじめての小説ということで、「彼らの生活をどこまでも生き生きと描くことができているのか?」というと、どうしても至らない部分というのがあった。それを今は、自分が育ててもらったフィールドの中で、役者が生き生きと演じてくれているというのを実感している日々で、ただただいまは本番が楽しみです。

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――舞台の見どころはどこにありますか。

丸尾 やっぱり、恥ずかしげもなく青春を謳歌している姿かな、と思います。いまの時代、どうしても世界を斜めにみがちな人が多くて、青春だったり自分の夢だったりを真正面から言うのって恥ずかしい。それを僕らが恥ずかしがらずに代弁するような舞台になっていると思います。笑って泣いて、ちょっと勇気をもらえるような舞台になればいいなと思っているし、そうしたいですね。

渡部 僕からは、見ないと損しますよ、とだけ。当時7人の劇団員が集まって上京し、そして分かれていってしまったのと同じように、今このときだけ集まったキャストが青春を生きて、また公演が終わればそれぞれの道に戻っていく。あのときの青春が、いまこのときだけ蘇るんです。だから、今見ないと損するよ、それだけです。

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ライティング:園田菜々
写真:飯本貴子
編集:株式会社ツドイ

【チケット詳細】

OFFICE SHIKA PRODUCE「さよなら鹿ハウス」

-公演期間
東京(座・高円寺1):11/8(木)~11/18(日)
大阪(HEP HALL):11/22(木)~11/25(日)

-LINEチケット販売期間
受付期間:各公演前日まで購入可能!